高強度・耐久性が求められる現代の産業分野において、「ワイヤーロープ」と「ブレードホース」は欠かせない存在となっています。これらの製品の性能を支える重要な素材が「ステンレス鋼線」です。シンドーではステンレス鋼線を中心に幅広いラインナップを取り揃えております。

ワイヤーロープの基礎知識
ワイヤーロープとは
ワイヤーロープは、複数の細い鋼線(ワイヤー)を撚り合わせて作られる高強度のロープ状製品です。一般に、まず数本の鋼線を撚り合わせて「ストランド」を形成し、さらに複数のストランドを中心となるコア(心綱)の周りに撚り合わせる構造になっています。
この構造により、ワイヤーロープは以下の特性を獲得しています:
- 高い引張強度
- 優れた耐摩耗性
- 適度な柔軟性と耐疲労性
- 過酷な環境下での長期使用に耐える耐久性
ワイヤーロープの主な用途
ワイヤーロープは多岐にわたる産業分野で利用されています:
- 重機・建設分野
- クレーンやウインチの巻上げ用ロープ
- 建設現場での資材吊り上げ機器
- 土木・建築分野
- 橋梁の補強ケーブル
- 吊り構造物の支持ケーブル
- トンネル工事用補強材
- 海洋・船舶分野
- 係船索
- 錨用チェーン・ロープ
- 海洋構造物の固定ケーブル
- 輸送・運搬分野
- エレベーターやリフトのケーブル
- ケーブルカーの牽引ロープ
- 索道(ロープウェイ)の支持索・牽引索
ブレードホースの基礎知識
ブレードホースとは
ブレードホースは、内部の樹脂やゴム製のチューブ(インナーチューブ)の外側に、金属ワイヤー(ブレード)を格子状に編み込んで補強した構造を持つホースです。このブレード層が内圧による膨張を抑制し、ホースの耐圧性能と耐久性を大幅に向上させます。
ブレードホースの主な構造は次の通りです:
- インナーチューブ(内管):流体が通る内側の管
- ブレード層:金属線を編み込んだ補強層
- カバー層:外部環境から保護する外側の被覆層
ブレードホースの主な用途
ブレードホースは様々な流体の搬送に利用されています:
- 工業分野
- 高圧油圧システム用ホース
- 空圧システム用ホース
- 各種機械の冷却水配管
- 化学・薬品分野
- 腐食性化学薬品の輸送用ホース
- 溶剤搬送用ホース
- 食品・飲料分野
- 食品製造ラインの原料搬送ホース
- 飲料製造プロセスの配管
- 医療・バイオ分野
- 医療機器用の滅菌可能ホース
- バイオ製薬プロセス用の高純度ホース
ワイヤーロープ・ブレードホース用ステンレス鋼線の特徴
ワイヤーロープやブレードホースに使用されるステンレス鋼線には、以下のような特徴があります:
1. 優れた耐食性
ステンレス鋼線の最大の特徴は、その優れた耐食性です。クロムを主成分とする不動態皮膜が表面に形成され、酸素や水分による腐食から保護します。この特性により、以下のような環境でも使用可能です:
- 海洋環境(海水接触)
- 化学薬品に触れる環境
- 高湿度環境
- 屋外の風雨にさらされる場所
2. 高い引張強度
ステンレス鋼線は、加工硬化や熱処理によって高い引張強度を実現しています。これにより、小径のワイヤーでも大きな荷重に耐えることができます。標準的なステンレス鋼線の引張強度は1,000〜2,100MPaに達するものもあり、用途に応じて適切な強度のものを選択できます。
3. 優れた柔軟性と耐疲労性
適切な製造プロセスにより、ステンレス鋼線は高い強度を保ちながらも、優れた柔軟性を持ちます。この特性は、繰り返し曲げや振動が発生するワイヤーロープやブレードホースの用途に不可欠です。また、疲労破壊に対する抵抗力も高く、長期的な使用に耐えます。
4. 美しい表面品質と加工性
ステンレス鋼線は表面が滑らかで美しく、適切な表面処理によって光沢のある外観を持ちます。また、伸線加工性に優れ、様々な径のワイヤーを製造できるため、多様な用途に対応できます。
5. 優れた耐熱性・耐寒性
ステンレス鋼線は広い温度範囲で安定した特性を維持します。一般的なSUS304系ステンレス鋼線は-200℃から800℃程度まで使用可能であり、極寒地や高温環境でも性能を発揮します。
ステンレス鋼線の主要グレードと特性
ワイヤーロープやブレードホースに使用されるステンレス鋼線には、いくつかの主要グレードがあります
1. SUS304(18Cr-8Ni)
最も一般的なオーステナイト系ステンレス鋼線です。
- 特徴:バランスの取れた耐食性と機械的特性
- 耐食性:良好(一般環境、軽度の酸・アルカリに対応)
- 強度:中〜高(加工硬化により強度アップ可能)
- 用途:一般的なワイヤーロープ、標準的な環境のブレードホース
2. SUS316(18Cr-12Ni-2Mo)
モリブデンを含有した高耐食グレードです。
- 特徴:優れた耐食性、特に塩化物に強い
- 耐食性:非常に良好(海水、強酸・強アルカリにも対応)
- 強度:中〜高
- 用途:海洋環境用ワイヤーロープ、化学薬品用ブレードホース
3. SUS302(18Cr-9Ni)
高炭素含有量による高強度が特徴です。
- 特徴:高い引張強度と硬度
- 耐食性:良好(SUS304とほぼ同等)
- 強度:高(加工硬化性が高い)
- 用途:高強度を要するワイヤーロープ、負荷の大きい用途
4. SUS316L(低炭素316)
炭素含有量を低減し、溶接性を向上させたグレードです。
- 特徴:優れた耐食性と加工性
- 耐食性:非常に良好(SUS316と同等以上)
- 強度:中程度
- 用途:食品・医療用ブレードホース、高純度要求の用途
ステンレス鋼線の選び方
適切なステンレス鋼線を選ぶためには、以下の要素を考慮する必要があります:
1. 使用環境に基づく耐食性の選定
使用環境 | 推奨グレード | 特徴 |
一般屋内環境 | SUS304 | 標準的な耐食性で十分 |
屋外・軽度塩害 | SUS304、SUS316 | 用途に応じて選定 |
海洋・強塩害環境 | SUS316 | 塩化物腐食に強い |
化学薬品環境 | SUS316、SUS316L | 薬品の種類に応じて選定 |
食品・医療用途 | SUS316L | 低炭素で高耐食性 |
2. 要求される強度と柔軟性のバランス
用途に応じた適切な強度と柔軟性のバランスを考慮します:
- 高強度重視:高い引張強度が必要な重荷重用途(クレーン、リフトなど)には、加工硬化処理された高強度仕様のステンレス鋼線を選択
- 柔軟性重視:頻繁な曲げや振動が発生する用途(可動部のブレードホースなど)には、柔軟性に優れた軟質処理されたステンレス鋼線を選択
- バランス型:標準的な用途には、適度な強度と柔軟性を兼ね備えたステンレス鋼線を選択
3. 線径と表面仕上げの選定
ワイヤーロープやブレードホースの設計要件に合わせて、適切な線径と表面仕上げを選定します:
- 線径:荷重条件や必要な柔軟性に応じて0.1mm〜数mmの範囲から選択
- 表面仕上げ:
- 光沢仕上げ:低摩擦特性と美観が必要な場合
- マット仕上げ:標準的な用途
- 特殊コーティング:特に過酷な環境や特殊要件がある場合
4. コストパフォーマンスの最適化
予算と性能要件のバランスを考慮して選定します:
優先点 | 推奨選定 | 特徴 |
耐食性最優先 | SUS316系 | 高コストだが最高の耐食性 |
コスト重視 | SUS304系 | バランスの取れた性能でコスト効率良好 |
強度優先 | 高引張仕様品 | 特殊加工による高強度品 |
特殊環境対応 | 目的別特殊グレード | 用途に応じた特性を持つ特殊グレード |
よくある質問(Q&A)
Q1. ワイヤーロープに使用するステンレス鋼線の寿命はどれくらいですか?
A1. 適切なグレードを選定し、定期的なメンテナンスを行うことで、使用環境にもよりますが、一般的に5〜20年程度の寿命が期待できます。ただし、過酷な環境や高負荷条件では定期的な点検と早めの交換が推奨されます。
Q2. ブレードホース用ステンレス鋼線の柔軟性はどのように確保されますか?
A2. 適切な熱処理と線径の選定により柔軟性を確保します。また、単線よりも極細線を多数撚り合わせることで、高い強度を保ちながら柔軟性を向上させる方法も採用されています。
Q3. 海水環境で使用する場合、どのグレードが最適ですか?
A3. 海水環境では塩化物による応力腐食割れのリスクがあるため、モリブデンを含有したSUS316系ステンレス鋼線が最適です。特に厳しい条件下では、さらに耐食性の高い特殊グレードが検討されることもあります。
Q4. 食品搬送用ブレードホースには、どのステンレス鋼線が適していますか?
A4. 食品搬送用途には、低炭素で高い耐食性を持つSUS316Lが最適です。これは食品安全基準に準拠し、衛生的な環境を維持するために重要です。また、表面仕上げも滑らかな光沢仕上げが推奨されます。
Q5. ステンレス鋼線の強度はどのように表されますか?
A5. ステンレス鋼線の強度は、主に引張強度(MPaまたはN/mm²)で表されます。一般的なステンレス鋼線の引張強度は1,000〜2,100MPa程度で、加工方法や熱処理によって調整されます。
ステンレス鋼線のご相談ならシンドーへ

適切なステンレス鋼線を選定するためには、使用環境、要求性能、コスト面を総合的に考慮することが重要です。特に、耐食性要件、強度と柔軟性のバランス、線径と表面仕上げの選択が、製品の性能と耐久性を左右します。お客様のご要望に合わせた最適な材料提供から加工まで、ステンレス鋼線のことならお気軽にご相談ください。